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筋膜の「硬さ」には種類がある②——ファズと線維化、「まだ戻れる段階」と「時間がかかる段階」

2026/3/18

評価・触診 2026/3/18

「何回やっても変わらない硬さ」に出会ったことはありませんか

前回の筋膜リリースで感じる「硬さ」には種類がある①では、水分環境の変化による「可逆的な硬さ」について解説しました。施術1回目で変化が出やすい、あのタイプです。

でも、臨床では「何回やっても変わらない硬さ」に出会うこともありますよね。同じように触って、同じようにアプローチしているのに、手応えが違う。筋膜リリースの場面で、この「変わる硬さ」と「変わらない硬さ」の差に戸惑った経験は、多くのセラピストが持っているのではないでしょうか。

先日、60代の男性で印象的なケースがありました。右肩の可動域制限で来院されたのですが、三角筋周囲の組織は比較的すぐに変化が出たのに、棘上筋腱と肩峰下滑液包の周辺は何回介入してもほとんど変わらない。この違いの背景にあるのが、「ファズ」と「線維化」という2つの段階です。

ファズ——まだ戻れる段階の筋膜変化

ファズ(fuzz)とは、不動や反復ストレスによって筋膜の層間に形成される薄い結合組織のネットワークです。Gil Hedleyの解剖動画で有名になった概念ですね。Hedleyは献体の解剖において、筋膜の層間に蜘蛛の巣のような薄い結合組織が形成されている様子を鮮やかに示しました。

ファズは、いわば「仮の橋渡し」のようなもの。層と層の間に薄い膜状の組織が架橋されますが、この段階では比較的容易に変化させることができます。ヒアルロン酸と筋膜の滑走性で解説したヒアルロン酸と滑走の仕組みを思い出してください。正常な筋膜では層間がスムーズに滑走しますが、ファズの形成はこの滑走性を阻害する最初のステップです。

朝起きたときの「身体の硬さ」が動き始めると解消するのは、一晩で形成されたファズが運動によって分解されるからだと考えられています。Schleip(2012)は、日常的に身体を動かしている人はファズの蓄積が少ない傾向にあることを指摘しています。あの「朝のストレッチで身体がほぐれる」感覚は、ファズの分解プロセスそのものかもしれません。

これは例えるなら、放置した食品ラップのようなものです。重ねて置いておくとくっつきますが、丁寧に剥がせばきれいに分離できる。でも、長期間圧着されたままだと、もう剥がせなくなりますよね。

線維化——時間がかかる段階の筋膜変化

一方、ファズが長期間蓄積し、力学的ストレスや炎症が持続すると、より密な線維組織に置き換わっていきます。これが線維化(fibrosis)です。Langevin(2009)の研究は、慢性腰痛患者の胸腰筋膜が健常者と比較してせん断弾性率が有意に変化していることを示し、筋膜の線維化が臨床的に重要な意味を持つことを裏づけました。

線維化の段階では、コラーゲン線維が不規則に配列し、組織の柔軟性と滑走性が大きく低下します。この変化は可逆的とは言いにくく、介入に時間がかかります。バイオテンセグリティとはのバイオテンセグリティの視点で見ると、局所の線維化は張力ネットワーク全体のバランスを崩す「固着点」として機能してしまいます。

触診では、ファズの段階では「粘り」のような抵抗感であったものが、線維化が進むと「壁にぶつかるような」硬さに変わる印象があります。触診の本質の触診の本質で述べたように、この質的な違いを手で感じ取る能力が臨床家には求められます。先ほどの60代男性のケースでは、三角筋周囲がファズ優位、棘上筋腱周囲が線維化優位だったと解釈できます。

可逆性と不可逆性のスペクトラム——筋膜の連続的変化

重要なのは、ファズと線維化は二項対立ではなく、スペクトラム(連続体)だということです。

完全に可逆的なファズの段階から、完全に不可逆的な線維化の段階まで、グラデーションがある。そして臨床で出会う多くのケースは、このスペクトラムのどこかに位置しています。Findley(2012)は、筋膜の病態をこの連続体として理解することの重要性を強調しています。

これは色のグラデーションに例えるとわかりやすい。白(完全に可逆的)から黒(完全に不可逆的)まで、無数のグレーがある。臨床で出会うのはほとんどが「グレーゾーン」であり、だからこそ「どの程度のグレーなのか」を見極める力が必要になるのです。

筋膜の評価とはの筋膜の評価で触れた評価の視点は、まさにこのスペクトラム上のどこに位置するかを判断するためのものです。

中長期介入の視点——筋膜リモデリングという希望

線維化の段階にある組織に対して、1回の施術で劇的な変化を期待するのは現実的ではありません。

しかし、線維化した組織でも、周囲の環境を改善し、適切な力学的刺激を継続的に入力することで、徐々にリモデリング(再構築)が進む可能性があります。Kjaer(2004)の研究は、コラーゲン組織が力学的刺激に応答してリモデリングすることを示しています。コラーゲンの代謝回転には時間がかかりますが、方向性を持った介入を継続すれば変化は起こりえます。筋膜リリースの「動かして、待つ」の「動かして、待つ」で解説する時間依存性のメカニズムも、ここで関係してきます。

ここで大事なのは、クライアントに「時間がかかること」を適切に伝えることです。ファズの段階であれば比較的早い変化が期待できることも、線維化の段階であれば継続的な取り組みが必要なことも、メカニズムを理解した上で説明できれば、クライアントの信頼も深まります。先ほどの60代男性にも、「肩の外側はすぐに変化が出ますが、上の部分は少し時間がかかります。理由はこういうことです」と説明したところ、とても納得してくださり、継続的な通院につながりました。

この視点を持つと筋膜アプローチの質が変わる

  • 変化が出やすい硬さと時間がかかる硬さを区別できる
  • クライアントへの予後説明に根拠が持てる
  • 短期的な介入計画と中長期的な介入計画を使い分けられる
  • 「変わらない」ときに焦らず、戦略を立て直せる
  • 評価→介入→再評価で触れる「評価→介入→再評価」のサイクルにおいて、変化の時間軸を予測できる

次回筋膜の「硬さ」には種類がある③では、3つ目のメカニズム——ストレスが身体を硬くする「能動的収縮」について解説します。


ファズと線維化の鑑別、介入戦略の違いを学べるセミナーを開催しています。興味のある方はぜひ。

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