「それ、本当に“リリース”していますか?」

「押せば効く」は、もう終わりにしませんか?
患者さんが眉をひそめる。
セラピストが「我慢してくださいね」と言いながら圧を深くしていく。
こうした施術風景、まだ臨床では珍しくありません。
けれど、“強刺激で変化を出す”という価値観自体が、すでに見直されつつあることをご存じでしょうか?
現代の筋膜研究や生理学の知見は、**「痛みを伴わないやさしい刺激こそが、機能的な変化を引き出す」**と示唆しています。
筋膜の「役割」を捉え直す
筋膜は、筋肉や臓器を包む結合組織にすぎない──
そう思われがちですが、最新の理解では**「身体全体を構造的・感覚的に統合するインターフェース」**としての役割が注目されています。
筋膜は単に“張る”のではなく、
- 張力を分散し、
- 組織間の滑走を助け、
- 感覚情報を脳へと送り返す
という、構造・神経・流体の交差点に位置する重要なネットワークです。
「痛くない」には理由がある
● 1. 反応するのは“微細な刺激”
筋膜には、Ruffini終末や自由神経終末といった低閾値の感覚受容器が豊富に存在します。
それらは、「ほんのわずかなズレ」や「変化の予兆」にすら反応することが知られています。
言い換えれば、**強い刺激**である必要はありません。
● 2. 自律神経との関係性
交感神経が高ぶると、筋膜は緊張し、滑走性が低下します。
それに伴ってTGF-β1の分泌が促進され、線維化が進行する可能性もあります。
つまり、痛みを伴うアプローチは、回復を妨げる引き金にもなり得るのです。
「痛くない」ことは、神経系にとっての安全サイン。
施術中に副交感神経優位な状態を引き出すことが、結果として組織の可塑性を高める土台になります。
● 3. 筋膜は「順路」で開く
構造物には、開きやすい方向や、力の伝達ラインがあります。
たとえば、ダンボールを開けるとき、ガムテープの部分から切れ目を入れるように。
筋膜も同様に、「順路」に沿ったアプローチによって、少ない力で全体が変化するのです。
これは単なる“感覚的なコツ”ではなく、テンセグリティ構造の特性に基づいた合理的な手技選択です。
実際の臨床ではどう使うのか?
■ こんなクライアントに適しています:
- 慢性的な関節可動域制限や疼痛
- 不良姿勢やマルアライメント
- 小児・高齢者で強刺激が使いづらい
- 痛み刺激で逆に防御反応が強くなる
筋膜と“対話”する時代へ
私たちの仕事は、筋膜を押し潰し痛みつけることではなく、筋膜の機能を引き出し、機能的な身体に導くことではないでしょうか。
「痛くない筋膜リリース」は、そのための新しい手段であり、受け手の負担を最小限にできる効率的な介入です。