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「癒着を剥がします」「硬くなった筋膜を壊して可動域を改善します」。
施術業界でしばしば見かけるこうした表現は、臨床的な妥当性とは別に、法的な観点でもリスクを伴う標榜であることが、あまり共有されていないように思います。
この記事では、医師法・あはき法・柔道整復師法といった関連法令の基本構造から、「壊す」「剥がす」という言葉が持つ法的含意までを整理してみます。法的判断の最終的な確認は専門家に委ねるべきですが、施術者・受講者・クライアントが共通理解として持っておく価値のある論点だと、私は考えています。
医師でなければ、医業をなしてはならない。
ここでいう「医業」は、判例・行政解釈で「医行為を業として行うこと」とされています。そして「医行為」とは、
医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為
と定義されています(最高裁判決および厚生労働省通知)。
判断基準の核は「人体に危害を及ぼすおそれ」があるかどうか。ここがとても大事なポイントです。
これらは「業務独占」の規定であり、無資格者が該当する行為を業として行うことを禁じています。
「癒着を剥がす」「組織を破断する」という表現を文字通り受け取れば、それは人体組織に物理的損傷を与える行為を意味します。これは定義上、医行為に近接する領域に入ります。
過去には、美容目的の医療類似行為で「組織を破壊する」「皮下組織に侵襲を与える」と謳ったものが、医師法違反で摘発されている例があります。厚生労働省は2017年以降、エステ・整体領域での侵襲的行為について通知を強化しており、「組織損傷を伴う行為を業として行う」と外形的に判断されれば、無資格での医行為と見なされる可能性が生じます。
実際の手技内容とは別に、「癒着を剥がす」「筋膜を壊す」と広告・説明することそのものが問題になり得ます。
2018年の医療広告ガイドライン改定以降、この領域は特に厳格化が進んでいます。
ここで重要なのは、実際の手技がソフトで、力学的にも組織破壊が起きていない場合でも、説明・広告で「壊す」「剥がす」と表現することは、外形的に医行為類似性を示唆するという点です。実態と説明の乖離が大きいほど、消費者契約上の問題(誇大広告、優良誤認)も発生します。
法的な議論と並行して、力学的な議論も押さえておく価値があります。
Chaudhry ら(2008)のモデル計算では、徒手介入で発生し得る力では、深筋膜の機械的変形は極めて限定的とされています。つまり、「壊している」「剥がしている」と説明していても、実際にコラーゲン架橋を選択的に破断できている可能性は力学的に低いんです。
即時的な可動域改善や軟化感の多くは、
といったメカニズムで十分に説明可能で、構造破壊を仮定する必要がありません。
つまり「壊す」という説明は、実態を正確に表していない可能性が高く、かつ法的リスクを抱えるという、二重に不利な標榜になっています。
筋膜の力学特性(応力緩和、クリープ、ヒステリシス、プレコンディショニング、ポロエラスティック挙動)を踏まえると、組織は「破壊して再構築する」よりも「対話して再組織化を促す」方が、その本来の応答メカニズムに沿っています。
低負荷・持続・待つアプローチは、
という三方向で防御的(defensive)な構造を持ちます。
施術を受ける側にとっても、この論点は知っておく意味があります。
「強く押されないと効いた気がしない」という体感は、文化的・経験的な学習の結果であって、力学的妥当性を保証するものではありません。むしろ、
ことを考えると、「壊す」「剥がす」という標榜を行う施術を選ぶことには、消費者として一定の慎重さが必要だと思います。
「癒着を剥がす」「筋膜を壊す」という表現は、
という三層で、採用しない方が無難な語彙だと言えます。
これは「優しい施術が良い」という情緒的な話ではなく、組織の応答メカニズム、説明責任、法的安全性の観点で合理的な選択です。施術者にとっても、クライアントにとっても、共通の理解として持っておく価値があると、私は考えています。
※本記事は一般的な法令の枠組みと過去の行政解釈・判例から読み取れる範囲をまとめたものであり、個別事案の法的判断ではありません。具体的な広告表現・施術内容の合法性判断については、都道府県の医務課、医療広告に詳しい弁護士、業界団体の法務窓口にご確認ください。