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テニス肘の鑑別診断——ECRB・LCL・滑膜ヒダ・回外筋症候群とfused enthesis

テニス肘の鑑別診断——ECRB・LCL・滑膜ヒダ・回外筋症候群とfused enthesis
肘・前腕

「テニス肘」という診断名に隠れた複数の病態

テニス肘の鑑別は、外側上顆部の痛みに対する的確な介入への第一歩です。外側上顆部の痛みを「テニス肘」と一括りにして対応していませんか。実は「テニス肘」という診断名の下には、まったく異なる介入を必要とする複数の病態が隠れている可能性があります。

臨床でこんなケースに遭遇したことはないでしょうか。「テニス肘」と診断されてストレッチやエキセントリックエクササイズを指導されたが、全く改善しない。あるいは、一時的に良くなるが特定の動作で必ず再発する。こうしたケースの背景には、疼痛源の鑑別が不十分なまま介入が行われている可能性があります。

私が経験した40代男性のケースでは、半年以上「テニス肘」として治療を受けていましたが改善がなく、詳細な鑑別の結果、実は後外側回旋不安定性(PLRI)を伴うLCLの問題であったことが判明しました。疼痛源が異なれば、当然アプローチも変わります。

Fused enthesisが鑑別を難しくする

なぜテニス肘の鑑別がそもそも難しいのか。その構造的な理由が「fused enthesis(融合付着部)」にあります。

外側上顆に付着する手関節・手指伸筋の起始は、それぞれ分離不能な共同腱として融合し、さらにLCLや輪状靭帯とも互いに融合してfused enthesisを形成しています。Bunata et al.(2007)の研究が示したように、これらの構造は個々の腱が独立して骨に付着しているのではなく、互いに筋膜的に連続しながら共通の付着部を共有しています。

さらに、腱の付着部そのものも単一の組織ではありません。(1)腱・靭帯の層 →(2)非石灰化線維軟骨層 →(3)石灰化線維軟骨層 →(4)骨層という4層構造を持ち、力学的性質の異なる層が連続的に配置されています。この層構造のどこに変性が生じているかによって、病態の意味が変わる。「外側上顆炎」という一語で括れない理由が、ここにあります。

肘のmusculo-capsular unit』の記事で解説したmusculo-capsular unitの概念をここでも思い出してください。外側上顆付近では、筋腱・靱帯・関節包が筋膜的に連続した複合体を形成しています。だからこそ、「どこが本当の疼痛源なのか」を丁寧に鑑別する必要があるのです。

鑑別すべき4つの構造と臨床的特徴

外側上顆部の痛みに対して、少なくとも以下の4つの構造を鑑別対象として考えるべきです。

ECRB(短橈側手根伸筋)の腱症

最も頻繁に「テニス肘」の原因として指摘される構造です。Nirschl & Pettrone(1979)が「angiofibroblastic tendinosis」と命名したように、ECRBの深層面(関節包と接する面)での変性が主な病態です。

ECRBの位置的な特徴を押さえておきましょう。ECRB腱は共同腱の最も深層かつ近位に存在し、肘関節最終伸展時には外側に突出する関節包が上腕骨小頭と摩擦する構造になっています。つまりECRBの病変は、単なる腱の変性ではなく「関節包の動態と小頭の位置関係が生み出す摩擦環境」の結果として現れやすい。表層でなく深層面での変性が起きる背景です。

ヒアルロン酸と筋膜の滑走性』の記事で触れたヒアルロン酸と滑走の視点から見ても興味深い。腱と関節包の間の滑走面での問題が、腱症の発生に関与している可能性があります。

鑑別に有用なテストとして、Thomsenテスト(手関節背屈抵抗での収縮時痛)とmiddle finger extensionテスト(中指伸展抵抗での誘発)があります。共同腱の長軸像をエコーで描出すると、損傷像ではfibrillar patternの消失と低エコー所見が認められ、症状部位と一致するかが判断材料になります。

LCL(外側側副靱帯)の損傷と硬化

LCLの問題は2つの方向で症状に関与します。

ひとつは損傷による回旋不安定性です。特にO'Driscoll(1991)が記述した後外側回旋不安定性(PLRI)は、テニス肘として治療されているケースに潜んでいる重要な病態です。PLRIは必ずしも明確な外傷歴を伴わず、繰り返しの微小外傷や医原性(コルチコステロイド注射後など)にLCLが弱くなるケースもあります。

もうひとつはLCL complexの硬化による疼痛への関与です。LCLが硬くなると橈骨頭の突出を押さえ込み、前腕回内や肘伸展がわずかに制限されます。鑑別のポイントは、肘屈曲位で疼痛なく、肘伸展・前腕回内位で疼痛が誘発されるパターン。このパターンが見られれば、LCL complexの緊張が疼痛環境を助長している可能性が高い。

肘の外側の痛みで「テニス肘の治療」が効かないとき、LCLの不安定性と硬化、どちらの方向からも評価する視点が重要です。

滑膜ヒダ・wrap around構造の挟み込み

腕橈関節の滑膜ヒダ(synovial plica)が肥厚・炎症を起こすと、関節包内での挟み込み(インピンジメント)が起きます。Kim et al.(2006)の研究では、テニス肘に類似した症状を呈する滑膜ヒダ障害の症例が報告されています。

ここで知っておきたいのがwrap around構造の存在です。輪状靭帯内面のwrap around構造は、前腕回内位で橈骨頭からの圧迫を強く受ける。滑膜ヒダの挟み込みと組み合わさると、回旋動作のなかで特定の位置で圧迫が顕著になります。

鑑別の手がかりは、前腕の回旋時に「引っかかり感」やクリック音を伴うこと。肘伸展+肘内反または回外で疼痛を伴うsnappingが出現すれば、滑膜ヒダの挟まり込みを強く疑えます。エコーで滑膜ヒダの肥厚が確認できることもあります。

回外筋症候群(後骨間神経絞扼)

Spinner(1968)が記述した後骨間神経(橈骨神経の深枝)がFrohseのアーケード(回外筋の近位縁の線維性アーチ)で絞扼される病態です。外側肘部の痛みに類似した症状が出るため、テニス肘と混同されることがあります。

鑑別のポイントは、手関節の伸展には支障がないのに指の伸展(特に中指)のみが弱くなること、また、回外筋のレベルでの圧痛回外運動の抵抗テストで症状が再現されることです。下垂指の有無は重要な鑑別所見です。

中枢感作と筋膜リリース』の記事でも触れましたが、神経の絞扼は局所の症状だけでなく、中枢レベルでの感作にも関与しうる問題です。

もう一つ知っておきたい——外側筋間中隔と橈骨神経の滑走

4つの鑑別対象を押さえた上で、もう一段奥の視点として知っておきたいのが、外側筋間中隔における橈骨神経の滑走環境です。

橈骨神経は外側筋間中隔を貫通して前面へ出る解剖学的経路をたどります。この外側筋間中隔が硬化すると、橈骨神経の滑走が制限され、外側上顆痛の一因となりうる。つまり「外側上顆の付着部」の鑑別を尽くしても症状が続くとき、神経の滑走環境という上流の条件が関与している可能性があります。『筋間中隔とは?表層と深部をつなぐ「橋」が臨床を変える』の記事で述べた「表層と深部をつなぐ橋」の視点が、ここで活きてくる場面です。

疼痛源の特定が介入を決める

これら4つ(+神経滑走環境)の病態は、それぞれまったく異なる介入の方向性を要求します。

ECRBの腱症であれば、腱の修復プロセスを促進するアプローチが適切かもしれない。LCLの不安定性であれば、安定性の回復が最優先であり、腱に対するアプローチとは根本的に異なります。LCL complexの硬化であれば、橈骨頭の動態を妨げない柔軟性の回復が鍵。滑膜ヒダの問題は関節内の問題として捉える必要があり、保存療法で改善しなければ外科的介入の適応も考慮されます。回外筋症候群であれば、神経の滑走性改善が求められます。

施術前スクリーニングの方法』の記事で述べたように、「何が問題なのか」を特定してから「どうするか」を決める。テニス肘こそ、この原則が特に重要な領域です。「テニス肘だからこうする」という画一的なアプローチでは、複数の異なる病態のうち1つにしか対応できません。

鑑別の枠組みを持つことの意義

外側上顆部の痛みに対してこの鑑別枠組みを持つことで、臨床的な精度が格段に上がります。fused enthesisの構造と4層付着部の理解は、なぜ鑑別が難しいのかという構造的理由を教えてくれます。そして各病態の特徴的な所見を知っておくことで、「評価→介入→再評価」のサイクルをより精密に回すことができるのです。


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