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2026/3/18
テニス肘の鑑別は、外側上顆部の痛みに対する的確な介入への第一歩です。外側上顆部の痛みを「テニス肘」と一括りにして対応していませんか。実は「テニス肘」という診断名の下には、まったく異なる介入を必要とする複数の病態が隠れている可能性があります。
臨床でこんなケースに遭遇したことはないでしょうか。「テニス肘」と診断されてストレッチやエキセントリックエクササイズを指導されたが、全く改善しない。あるいは、一時的に良くなるが特定の動作で必ず再発する。こうしたケースの背景には、疼痛源の鑑別が不十分なまま介入が行われている可能性があります。
私が経験した40代男性のケースでは、半年以上「テニス肘」として治療を受けていましたが改善がなく、詳細な鑑別の結果、実は後外側回旋不安定性(PLRI)を伴うLCLの問題であったことが判明しました。疼痛源が異なれば、当然アプローチも変わります。
なぜテニス肘の鑑別がそもそも難しいのか。その構造的な理由が「fused enthesis(融合付着部)」にあります。
外側上顆の付着部では、ECRB(短橈側手根伸筋)、EDC(総指伸筋)、LCL(外側側副靱帯)などが融合した付着部を形成しています。Bunata et al.(2007)の研究が示したように、これらの構造は個々の腱が独立して骨に付着しているのではなく、互いに筋膜的に連続しながら共通の付着部を共有しています。
肘のmusculo-capsular unitの記事で解説したmusculo-capsular unitの概念をここでも思い出してください。外側上顆付近では、筋腱・靱帯・関節包が筋膜的に連続した複合体を形成しています。だからこそ、「どこが本当の疼痛源なのか」を丁寧に鑑別する必要があるのです。
外側上顆部の痛みに対して、少なくとも以下の4つの構造を鑑別対象として考えるべきです。
最も頻繁に「テニス肘」の原因として指摘される構造です。Nirschl & Pettrone(1979)が「angiofibroblastic tendinosis」と命名したように、ECRBの深層面(関節包と接する面)での変性が主な病態です。
特徴的なのは、ECRBの病変が腱の表層ではなく深層面——関節包との界面——で起きやすいこと。これはヒアルロン酸と筋膜の滑走性の記事で触れたヒアルロン酸と滑走の視点から見ても興味深い。腱と関節包の間の滑走面での問題が、腱症の発生に関与している可能性があります。
把持動作や手関節の背屈抵抗テストで再現される典型的な痛みが特徴です。しかし、これだけでは他の疼痛源との鑑別は不十分であることを認識しておく必要があります。
LCLの損傷は回旋不安定性を引き起こします。特にO'Driscoll(1991)が記述した後外側回旋不安定性(PLRI)は、テニス肘として治療されているケースに潜んでいる重要な病態です。
注意すべきは、PLRIは必ずしも明確な外傷歴を伴わないことがある点です。繰り返しの微小外傷や、医原性(コルチコステロイド注射後など)にLCLが弱くなるケースもあります。肘の外側の痛みで「テニス肘の治療」が効かないとき、LCLの問題を疑う視点が重要です。
腕橈関節の滑膜ヒダ(synovial plica)が肥厚・炎症を起こすと、関節包内での挟み込み(インピンジメント)が起きます。Kim et al.(2006)の研究では、テニス肘に類似した症状を呈する滑膜ヒダ障害の症例が報告されています。
特徴的なのは、前腕の回旋時に「引っかかり感」やクリック音を伴うことがある点です。エコーで滑膜ヒダの肥厚が確認できることもあり、筋膜の評価とはの筋膜の評価で述べた画像評価の有用性がここでも発揮されます。
Spinner(1968)が記述した後骨間神経(橈骨神経の深枝)がFrohseのアーケード(回外筋の近位縁の線維性アーチ)で絞扼される病態です。外側肘部の痛みに類似した症状が出るため、テニス肘と混同されることがあります。
中枢感作と筋膜リリースの中枢感作の記事でも触れましたが、神経の絞扼は局所の症状だけでなく、中枢レベルでの感作にも関与しうる問題です。鑑別のポイントは、手関節の伸展には支障がないのに指の伸展(特に中指)のみが弱くなること。また、回外筋のレベルでの圧痛が再現性をもって確認されることです。
これら4つの病態は、それぞれまったく異なる介入の方向性を要求します。
ECRBの腱症であれば、腱の修復プロセスを促進するアプローチが適切かもしれない。LCLの不安定性であれば、安定性の回復が最優先であり、腱に対するアプローチとは根本的に異なります。滑膜ヒダの問題は関節内の問題として捉える必要があり、保存療法で改善しなければ外科的介入の適応も考慮されます。回外筋症候群であれば、筋間中隔とは?表層と深部をつなぐ「橋」が臨床を変えるの記事で触れた筋間中隔の視点も含めて、神経の滑走性改善が求められます。
施術前スクリーニングの方法のスクリーニングの記事で述べたように、「何が問題なのか」を特定してから「どうするか」を決める。テニス肘こそ、この原則が特に重要な領域です。「テニス肘だからこうする」という画一的なアプローチでは、4つの異なる病態のうち1つにしか対応できません。
外側上顆部の痛みに対してこの4つの鑑別枠組みを持つことで、臨床的な精度が格段に上がります。fused enthesisの理解は、なぜ鑑別が難しいのかという構造的理由を教えてくれます。そして各病態の特徴的な所見を知っておくことで、評価→介入→再評価で述べた「評価→介入→再評価」のサイクルをより精密に回すことができるのです。
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