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2026/3/18
膝窩部(膝の裏)の疼痛について、内側と外側で異なるメカニズムが関与していることをご存じでしょうか。「膝の裏が痛い」と訴えるクライアントに対して、「ハムストリングスが硬いんでしょう」で片付けてしまう場面は珍しくありません。もちろんハムストリングスの問題であるケースもありますが、膝窩部の疼痛にはもっと精密な鑑別が可能です。
臨床で印象に残っているケースがあります。60代の男性で、ゴルフのラウンド後に膝の裏が痛むという訴えでした。「ハムストリングスのストレッチをしているのに良くならない」と。痛みの部位を詳しく確認すると、膝窩部の内側に限局していました。半膜様筋の付着部付近を評価すると、著明な圧痛と筋膜の滑走性低下があった。膝窩部痛を「内側」と「外側」に分けて鑑別する視点を持っていたからこそ、適切な評価にたどり着けた例です。
内側膝窩部の痛みに関与しやすいのが半膜様筋(semimembranosus)です。半膜様筋は3つのハムストリングスの中で最も深層に位置し、膝屈曲時に内側半月板を後方に引く重要な役割を持っています。
Rauschning & Lindgren(1979)の研究が明らかにしたように、膝屈曲が進むにつれて内側半月板の後角が後方に移動する(lift off)必要があります。このlift offが不足すると、大腿骨内側顆と脛骨の間で半月板が挟み込まれるリスクが高まります。
このメカニズムを理解すると、「内側膝窩部痛」の読み方が変わります。半膜様筋の機能不全(筋力低下や周囲の筋膜の癒着)→内側半月板のlift off不足→半月板への機械的ストレス→内側膝窩部痛、という連鎖が見えてくる。評価→介入→再評価の「評価→介入→再評価」の原則に従って、半膜様筋周囲の筋膜の状態を評価し、変化を確認していくプロセスが有効です。
筋間中隔とは?表層と深部をつなぐ「橋」が臨床を変えるの筋間中隔の記事で解説した「筋間の滑走性」がここでも重要で、半膜様筋と半腱様筋の間、半膜様筋と腓腹筋内側頭の間の滑走が保たれているかどうかが、半膜様筋の機能を左右します。
外側膝窩部の痛みに関与するのが膝窩筋(popliteus)です。膝窩筋は「膝のアンロック」——伸展位からの初動で脛骨を内旋させる筋——として知られていますが、もう一つ重要な役割があります。それは、大腿骨外側顆の後方移動(ロールバック)を制御する役割です。
膝蓋下脂肪体(IFP)の除圧機構と膝深屈曲の膝蓋下脂肪体の記事でもロールバックに触れましたが、深屈曲では大腿骨が脛骨上を後方にロールバックします。ここで重要なのは、外側顆のロールバック量は内側よりも大きいということです。Freeman & Pinskerova(2005)の研究によれば、外側顆は内側顆の約2倍のロールバックを行います。
膝窩筋はこの外側の大きなロールバックを「制御」する筋です。膝窩筋の機能不全によりロールバックの制御が乱れると、外側の構造に過負荷がかかり、膝窩部外側の痛みにつながります。また、膝窩筋の周囲には膝窩動脈が走行しているため、この領域の筋膜の状態は筋膜と循環の「循環は環境」の視点からも重要です。
内側・外側の鑑別を考えるうえで、半月板の動態の違いを理解しておくことが重要です。
内側半月板は比較的固定されています。関節包や内側側副靱帯(MCL)に強固に付着しており、可動性は限られている。だからこそ、後角のlift offが不足すると「逃げ場がない」——挟み込まれるリスクが高い。
一方、外側半月板は内側よりも可動性が高い。関節包との結合が緩く、膝窩筋腱の溝(popliteal hiatus)で関節包と連続していないため、ロールバックに追従して大きく動くことができます。Thompson ら(1991)はこの外側半月板の可動性を「meniscal excursion(半月板の偏位量)」として定量化し、外側は内側の約2倍の偏位量があることを示しました。
この「内側=固定的」「外側=可動的」という対比が、膝窩部痛の内外差のメカニズムの根底にあります。
半月板の可動性を規定しているのは、半月板自体の性質だけではありません。半月板に付着する靱帯(半月板大腿靱帯、横靱帯など)、筋腱(半膜様筋、膝窩筋)、そしてそれらを包む筋膜の状態が、半月板の「動きやすさ」を左右しています。
ヒアルロン酸と筋膜の滑走性のヒアルロン酸と滑走の記事で解説した層間滑走の概念が、ここでも当てはまります。半月板周囲の組織間にヒアルロン酸を含む薄い液体の層があり、これが適切な滑走を可能にしている。この滑走環境が低下すると、半月板の動態が制限され、結果として膝窩部痛のリスクが上がる。
筋膜リリースで感じる「硬さ」には種類がある①-17の筋膜の硬さシリーズで述べた「硬さの原因の鑑別」——筋のスパズムなのか、筋膜のdensificationなのか、関節包の拘縮なのか——を膝窩部にも適用することで、評価の精度が上がります。
「膝裏が痛い」を一括りにせず、内側か外側かを確認し、それぞれのメカニズムに沿って評価する。この一手間が鑑別の精度を大きく上げてくれます。
内側膝窩部痛:半膜様筋の機能、内側半月板後角のlift off、半膜様筋周囲の筋間滑走
外側膝窩部痛:膝窩筋の機能、外側顆のロールバック量、外側半月板のmeniscal excursion
筋膜アプローチはなぜ「側面」から始めるのかの「側面から始める」の記事で述べた評価の考え方——「正面だけでなく側面からも読む」——が膝窩部にも適用できます。前方から見た膝の問題だけでなく、後方から、そして内側・外側に分けて後方を読む。この三次元的な評価が、膝の臨床をより精密にしてくれるはずです。
膝屈曲制限を6つの経路で評価するの6つの経路の記事で紹介した「経路6:深屈曲時の後方構造」をさらに掘り下げるものとして、今回の内側・外側の鑑別を活用していただければと思います。
膝窩部の鑑別操作と介入をセミナーで学べます。興味のある方はぜひ。