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相互螺旋部とは?「硬くないのに動かない」身体を理解する筋膜の視点

2026/3/18

介入戦略 2026/3/18

相互螺旋部を理解すると「硬くないのに動けない」の謎が解ける

筋膜の臨床において、「相互螺旋部」という視点は非常に重要でありながら見過ごされがちです。触診しても特別硬い場所が見つからないのに、動きが明らかに制限されている——そんなクライアントに出会ったことはありませんか。

先日、60代の女性が「背中が張って体が回せない」と来院されました。触診の本質の触診の本質の記事で述べたように、丁寧に触診していくのですが、局所的な硬さが見当たらない。組織の粘弾性は保たれていて、個々の筋膜の滑走性もそこまで悪くない。でも体幹の回旋をしてもらうと、左右とも30度程度で止まってしまう。明らかに制限がある。

この方に「どこか痛いところはありますか?」と聞くと、「痛くはないんです。ただ、体がひとかたまりになっている感じで……」と答えられました。この「ひとかたまり」という表現が、まさに相互螺旋部の問題を直感的に捉えていたと思います。

螺旋構造と身体の安定性メカニズム

身体には、螺旋状に走行する筋膜の配列が多く存在します。Scarr(2014)のバイオテンセグリティ研究が示すように、生体の構造は直線的ではなく、螺旋と曲線で構成されています。この螺旋構造は、身体に回旋の自由度と安定性を同時に付与しています。

DNAの二重螺旋を思い浮かべてください。あの構造が安定しているのは、二つの螺旋が互いに拮抗しながら支え合っているからです。身体の相互螺旋構造も同様で、右回旋の螺旋と左回旋の螺旋が互いにバランスを取ることで、安定性と可動性の両方を実現しています。

バイオテンセグリティとはのバイオテンセグリティの記事で解説したように、テンセグリティ構造は圧縮材と張力材のバランスで成り立っています。螺旋構造が適切に機能しているとき、プレストレス(予圧)が適度に保たれ、コラーゲン線維のcrimp(波状構造)が余裕を持って変形できる状態にあります。

プレストレスとcrimpの関係——過剰張力が生む「動けない安定」

プレストレスとは、外力がかかっていない状態でも組織内に存在している張力のことです。姿勢はストレス分配の表現のストレス分配で触れたように、適切なプレストレスは構造の安定性に不可欠です。しかし問題は、このプレストレスが過剰になったときに起こります。

Schleip(2005)の筋膜の能動的収縮性に関する研究を参考にすると、筋線維芽細胞の持続的な収縮がプレストレスの過剰に関与している可能性があります。筋膜リリースで感じる「硬さ」には種類がある①-17の筋膜の硬さシリーズで詳しく述べましたが、交感神経系の持続的な賦活は筋線維芽細胞の収縮を促し、組織全体の張力を上げてしまいます。

コラーゲン線維のcrimpは、線維が波状に折りたたまれた構造で、これが伸びることで組織に柔軟性を与えています。ばねのコイルをイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。ばねに余裕があれば伸び縮みできますが、常に引っ張られた状態では伸びる余地がなくなる。

プレストレスが過剰になると、crimpが引き伸ばされて余裕がなくなり、組織は構造的に硬くなります。ただし、これは触診の本質の触診の本質で述べた「局所的な硬さ」とは質が異なります。個々の組織を触っても硬くないのに、全体としての動きが制限される。それが「相互螺旋部の固着」という現象です。

安定性と可動性のパラドックス——「姿勢が良い」の罠

臨床で興味深いのは、相互螺旋部が固着した状態のクライアントは、一見すると「姿勢が良い」ように見えることがある点です。

先ほどの60代の女性もそうでした。立位で見ると、動揺が少なく、しっかりと安定して立っている。姿勢評価の教科書的には「良い姿勢」に分類されるかもしれません。でも実際に動いてもらうと、回旋が乏しく、動きが一塊になっている。まるで上半身全体が一枚の板になったかのような動き方です。

Kato et al.(2019)の研究は、高齢者の歩行における体幹回旋の減少と転倒リスクの関連を示唆しています。安定性のために可動性を犠牲にしている状態は、一見安全に見えて、実はリスクを内包している可能性があるわけです。

マイオファッシャルユニット(MFU)とはのマイオファッシャルユニットの記事で述べたように、筋膜は個々の筋を超えた連続体として機能しています。相互螺旋部の問題は、この連続体全体の張力パターンの問題であり、個別の筋膜制限とは区別して考える必要があります。

安定性を壊さずに可動性を回復するという臨床的課題

では、相互螺旋部の固着に対してどう考えるか。ここで重要なのは、安定性と可動性は対立するものではなく、適切なバランスの上に成り立つものだという認識です。

安定性を壊してしまえば可動性は出るかもしれませんが、それは代償のない「良い可動性」ではない。評価→介入→再評価の評価→介入→再評価の記事で述べた臨床循環の考え方に基づけば、介入前後で安定性が保たれながら可動性が改善しているかを確認することが不可欠です。

筋膜と循環の循環は環境の記事でも触れましたが、筋膜の変化には適切な環境条件が必要です。相互螺旋部のプレストレスを正常化するためには、まず交感神経系の過剰な賦活を落ち着かせる必要がある。筋膜リリースで「ゆっくり触れる」ことの神経科学のゆっくり触れる神経科学の考え方が、ここでも活きてきます。

臨床的なヒントとしては、筋膜アプローチはなぜ「側面」から始めるのかの「側面から始める」という視点が役立ちます。相互螺旋構造が固着しているとき、正面や背面からのアプローチでは変化が出にくいことがあります。螺旋の交差点——つまり側面——にアプローチすることで、全体の張力パターンが変わりやすくなる場合があるのです。

この視点が臨床にもたらす変化

相互螺旋部の視点を持つと、「硬くないのに動かない」ケースへの理解が根本的に深まります。個別の組織ではなく全身的な張力パターンとして問題を捉えられるようになる。安定性を壊さずに可動性を回復する介入戦略を考えられるようになる。そして、螺旋構造の固着と個別の筋膜制限を区別できるようになります。

筋膜の評価とはの筋膜の評価で述べた「何を見ているのか」の解像度が上がり、筋膜リリースにおける再評価の再評価でも、局所の変化だけでなく全身的な螺旋パターンの変化を確認する視点が加わります。

「硬さ」だけでは説明できないケースに出会ったとき、相互螺旋部という視点が突破口を開いてくれるはずです。


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