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2026/3/18
「この人は循環が悪いから筋膜が硬くなっている」——そう説明することは多いですよね。クライアントにも「血流を良くしましょう」と伝える。筋膜リリースの目的として「循環改善」を挙げるセラピストも少なくありません。
間違いではないんです。でも、循環を「原因」として捉えてしまうと、思考がそこで止まりがちです。「循環を良くする」がゴールになり、具体的に何をどう変えるかが曖昧になる。
先日、術後3週間で来院された70代の男性がいました。大腿骨頸部骨折のオペ後で、患側の大腿部全体が「パンパンに張っている」状態。担当の理学療法士から「循環が悪いから硬い」と説明されていたのですが、よく観察すると、大腿前面と外側では組織の硬さの質が明らかに違う。前面は浮腫を伴う水分動態の問題、外側は不動による基質の粘性変化が主体——同じ「循環が悪い」という括りでは説明しきれない複雑さがありました。
循環を「原因」ではなく「環境」として捉え直すと、臨床の解像度が一段上がります。
筋膜リリースで感じる「硬さ」には種類がある①〜17のシリーズで、筋膜の硬さには3つのメカニズム——基質の粘性変化、ファズ・線維化、能動的収縮——があることを解説しました。
循環(血管、リンパ、間質液の動態)は、これら3つのすべてに影響を与える「環境因子」です。Schleip(2012)が指摘するように、筋膜の健康は局所の循環環境に大きく依存しています。
つまり循環は、硬さの「原因」ではなく、硬さが生じやすい「環境」を作っている、あるいは改善しにくい状態を「維持」しているんです。これは例えるなら、植物が枯れる原因は水不足だけではなく、土壌・日当たり・温度という「環境」が総合的に影響するのと同じことです。
この捉え方の違いは、介入の設計に直接影響します。
「循環が原因」と考えると、介入は「循環を改善すること」になります。マッサージで血流を促す、温める、運動を勧める。それ自体は有効ですが、「何のために循環を改善するのか」が曖昧になりがちです。
「循環は環境」と考えると、介入の目標がより明確になります。「基質の粘性を改善するために、まず循環環境を整える」「線維化のリモデリングを促すために、循環環境を改善する必要がある」というように、循環改善は手段であり、目標は組織の状態変化です。
先ほどの70代男性のケースに戻ると、大腿前面には循環環境の改善(浮腫の管理)が優先され、外側には循環改善を基盤にした上での基質への力学的刺激が必要——というように、同じ「循環アプローチ」でも目的と手段が明確に区別できるようになります。評価→介入→再評価の「評価→介入→再評価」のサイクルにおいても、この区別は介入の妥当性を判断する基準になります。
循環を環境因子として見ると、「なぜ施術の効果が持続しないか」の説明がつくケースがあります。
施術で一時的に組織の状態が改善しても、循環環境が悪いままだと、すぐに元の状態に戻ってしまう。改善した状態を「維持する環境」が整っていないからです。これは筋膜リリースの「動かして、待つ」の「動かして、待つ」で触れる内容とも関連しますが、組織の変化を定着させるためには、その変化を支える環境が必要なのです。
Stecco(2022)も、筋膜の治療効果の持続には局所の微小循環が重要な役割を果たすことを指摘しています。施術の効果が「その場限り」で終わってしまうとき、テクニックの問題ではなく環境の問題かもしれません。
ある40代の女性ランナーが典型的でした。腸脛靭帯周囲の硬さに対して毎回しっかりアプローチするのですが、次に来たときにはまた元通り。よく聞くと、デスクワークで一日中座りっぱなし、水分摂取も少なく、睡眠も不規則。施術で一時的に改善しても、循環環境が改善されなければ元に戻るのは当然です。
このような場合、局所の介入だけでなく、循環環境全体を改善する視点が必要になります。腹圧と筋膜の関係の腹圧と胸郭・肩甲帯、胸郭と呼吸の筋膜的評価の胸郭と呼吸評価で触れるように、呼吸パターンは全身の循環に大きく影響します。
具体的には以下のような要素です:
これらは「セルフケア指導」の範疇ですが、循環を環境因子として理解していると、なぜそのセルフケアが必要なのかを科学的に説明できます。クライアントの納得感と実行率が変わってくるのです。
循環環境を考慮した介入設計を学べるセミナーを開催しています。興味のある方はぜひ。